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それは、時間の扉を開けて、過去と今をつなぐ旅。ヴィンテージ・ロックTシャツを通じて、音楽のルーツをたどり、ミュージシャンたちの感性に触れるストーリー。
初回に登場するのはThe Novembersのドラマー、吉木諒祐さんです。彼の音楽に対する情熱、そしてファッションに対する美学を探りました。ロックTシャツやヴィンテージアイテムへのこだわり、さらには彼のライフスタイルまで、その視点に迫ります。
interview & profile photo:Erika Murphy(Luby Sparks/LABORATORY®)、photo:Shogo Tanaka(LABORATORY®) 、text:Yuki Endo(LABORATORY®)
PROFILE
吉木諒祐/Ryosuke Yoshiki
1985年生まれ。東京都出身。The Novembersのドラマーとして2005年の結成時からバンドを支え、その他様々なバンドのサポートドラムとしても精力的に活動中。ミュージシャンとして活躍する傍ら、友人とともにアパレルブランド「debaser」を立ち上げ、音楽のみならずファッション分野でも活動の幅を広げている。
Instagram:@yhoshuah、@debaser_store X:@Yhoshuah
自己表現としてのロックTシャツ
The Novembersとしての活動だけでなく、ファッションにも独自の美学を追求する吉木諒祐さん。彼の音楽の原体験はNirvana。「Nirvanaの音楽は僕にとっての原点で、デイヴ・グロールのドラムスタイルには大きな影響を受けました」と語る彼にとって、ロックTシャツは単なるファッションアイテムではなく、音楽やアーティストへのリスペクトを示しながら、自分のスタイルを融合させた「自己表現のひとつ」。
インタビュー当日には、私物であるPink FloydのヴィンテージTシャツを着用。「このTシャツも、当時は古着屋で手頃に買えたのですが、今ではかなり高騰しています。希少性もありますが、ファッションとしての人気が高まっている影響も大きいですね」と語ります。さらに「最近、タイの古着マーケットを訪れたとき、日本からのヴィンテージバイヤーが多く、ロックTシャツが高額で取引されているのを目の当たりにしました。世界中でロックTシャツの価値が上がっていることを実感します」。
オリジナルグッズ制作へのこだわり
かつてオンラインショップを運営していた吉木さん。そのきっかけは、「2000年代初頭にロックTシャツ屋をやっていたdebaserのメンバーの知人から『在庫を全部あげるよ』と言われて、ダンボール5箱分くらいのTシャツがあったんです。その中にはThe SmithsやPixies、パンクバンドのTシャツも多くありました」と話します。こうした80〜90年代の希少なロックTシャツを販売していた経験は、バンドのオリジナルグッズやアパレルブランド「debaser」の制作にも大いに役立っているそうです。
「ヴィンテージTシャツを扱っていたことで、ボディの質感やプリント技術に敏感になりました。特にシルクスクリーンプリントには注目しています。当時のTシャツには7、8版も使っているものもあり、かなり手間がかかっていたはずです。今のようなインクジェットが主流ではなく、当時はコストがかなり高かったはず。僕自身もグッズ制作で13版使ったことがあり、費用がかなりかかったことをよく覚えています」。
また、商品販売の難しさについては、「バンドとしてはロゴだけのシンプルなデザインには抵抗があるんですが、意外とシンプルなロゴTシャツを求められることも多いんです。こだわったデザインよりもシンプルなものの方が売れることがあり、そのバランスには悩みますね」と、デザインとニーズのギャップに苦悩する一面も垣間見せてくれました。
ミュージシャンのTシャツ遍歴
Tシャツにまつわる具体的なエピソードについても伺いました。人気ミュージシャンが最初に手にしたロックTシャツとは? 「ロックTシャツを初めて買ったのは、たしか大学1年生のとき。MY BLOODY VALENTINEのもの(『You Made Me Realise』のジャケットデザイン)だったと思います。そのTシャツも、今ならかなりの値段がついていたかもしれませんね。ボディはフルーツオブザルームの90年代タグでした」。
最近気になったヴィンテージTシャツとしては、「Sonic YouthのウォッシングマシーンTシャツが着たくなりました。ブルーボディのやつです。昔は周りのみんなが着ていたので避けていたんですが、今なら着られると思って探していました。でも、なかなか雰囲気の良いものが見つからなくて。代わりに見つけた同じブルーボディの80年代ミッキーTシャツに惹かれて、衝動買いしました」。
さらに、お気に入りのTシャツはヴィンテージ以外にも。「先日、SwansのTシャツを海外サイトから取り寄せました。送料が商品代と同じくらいかかりましたが、好きなバンドのTシャツは新品でもついつい買ってしまいます。ほかには、Puma Blueのものもレコードと一緒に購入しました」。そんなTシャツにまつわるエピソードから、音楽とファッションが彼の日常に深く結びついていることが伝わります。
“整う”音楽とライフスタイル
ファッションだけでなく、日々のライフスタイルにもこだわりを持つ吉木さんに、最近よく聴く音楽についても聞いてみました。「最近は環境音楽をよく聴いています」と語る彼。サウナに通うことが増え、音楽の趣向も変わったようです。「特に吉村弘さんの音楽が好きでよく聴いています。近年、日本の環境音楽が“ジャパン・アンビエント”として注目されていますが、その先駆者である吉村さんも再評価されています。この間、偶然入ったサウナで吉村さんの曲が流れてきて、すごくリラックスできました。サウナと“整う”音楽の相性は抜群ですね」。
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