ワックスが抜けて乾いた部分、
逆に油分が残って黒く沈んだ部分、
その境目が曖昧にゆらいでいて、まるで革ジャンのエイジングのよう。
バブアーというより、もはや別のジャンルのアウターに踏み込んでいる。
触るとドライで、でも芯はまだしっかりしていて、
長い距離を移動したトラックの荷台みたいな、
使われた布だけが持つあの手触りがある。
汚れではなく、景色になっているシミ。
擦れたコーデュロイがつくる影。
ポケットの角だけ妙に濃く残るワックス。
すべてがひとつのストーリーになって、
新品のバブアーでは決してたどり着けない領域まで行っている。
そしてこれは、US市場向けの“New Hampshire”モデルで、
ビデイルの上品さと、USワークジャケットの荒々しさを混ぜたバブアージャケット。
クラシックなビデイルとは違う、少し無骨で荒野の匂いがするシルエットが、
このフェードと妙にハマっている。
ヴィンテージのバブアーは数あれど、
ここまで振り切れたフェードは、本当に出会えない。
見た瞬間に心を掴まれる人と、まったく響かない人のどちらか。
そういう極端な美しさを持った一本。
秋の冷たい風の前に、
このジャケットだけがひとつだけ違う温度で立っているような、
そんな存在感があります。
一押しのバウアーです。
